2023年3月17日
こんにちは。東京都江戸川区のユニケア訪問看護リハビリステーションです。
今回はユニケア事業所内で行われた「家族会」の様子をお届けいたします。


「話ができる時間がなく、最後どうして欲しいのか聞けなかったのが自分として残念です」

「自分だけじゃとてもとても無理でした。でも、先生、歯医者さん、ウィルさん(訪看他事業所)、たくさんの方が毎日来てくださっていて・・・。まだ手続き終わっていないんですが、それが終わった時にどうなるんだろうと思っています。前向きにいかないといけないが、葛藤しているところなんです。夜一人になるといろんな思いが出てきて・・・でもなんとか元気にやらないとと思って頑張っています。」
しかしコロナ禍では、S様が人工呼吸器を付けていたため、感染させちゃいけないという思いを奥様もスタッフも強く感じ、奥様自身も「自分のせいで何かあったら」といつも気を張り詰めていらっしゃったそうです。
そんな中でも、奥様はいつもユニケアスタッフやケアマネさんへ優しい心遣いをしてくださっており、皆奥様の優しさにいつも救われ、元気をいただいておりました。
看護師・青木:こんなに優しい家族っているんだと実感していました。ご本人も奥様もとても穏やかだったため、どのような気持ちを抱えていらっしゃったのでしょうか?
奥様;今はインターネットがありますので、調べるとどうなっていくのか誰でも調べられるため、主人が最期こうなるんだと徐々に覚悟はしていました。それでも、ALSだと診断される前は眠れませんでしたね。もしかしたらそうなんじゃないか?それだったらどうしよう?という思いがまずありました。今も当時もなんで?なんで?という思いしかありません。退院してから、「ここからは看護師さんがいないため自分がなんとかするしかないんだ、人工呼吸器は命に関わるから……」と責任を感じたのですが、娘に相談した時「それはそれで仕方ないと思わないと」と言われ少し気持ちが楽になりました。それでも、自分のせいで何かあるのは嫌だとずっと思っていましたね。
ご家族が自宅で大切な人をお看取るにあたり、どれだけ地域のサービスを活用していたとしてもご家族の負担や不安は計り知れませんよね。
だからこそ、サービスの介入時から家族への精神的ケアや信頼関係の構築が必要になります。
奥様:最初の頃は少し意思疎通できていたんですが、認知症も入ってきていたため必要最低限のことしか喋れませんでした。人工呼吸器をつけるかどうかの選択もできず、最期どう迎えたいかは聞けなくて・・・。パソコンの視線入力も口パクも出来ずに病状が進んでいってしまったため、心の底の思いを聞けませんでした。もっと生きたいのか、これが最大限なのか。主人は入院中もずっと穏やかで、家に帰ってきてもそうでした。こういう状態が嫌じゃないのかな?納得しているのかな?と思って3年間過ごしていたのですが、どうしてそういう感情でいられたのか、どこからその覚悟が生まれてきたのかは最後までわかりませんでした。
長く担当した看護師の武澤は、S様との関わりを思い出しながら思わず涙を浮かべていました。
看護師・武澤:2019年10月にユニケアに入り、ALSの方と関わりたいと言っていた時に最初に関わらせていだいたのがS様でした。いろいろと悩みながら3年間過ごさせていただいたのですが、今でもS様が大好きだった相撲の番組などを見る度にS様のことを思い出してしまいます。もっと何かできたんじゃないかとも思ってしまいます。話せないため意思疎通ができず、欲を言えば入院中からもっとコミュニケーションの方法が出来ていれば……とタラレバの話ばかりしてしまって・・・。
武澤も非常に熱心にS様に関わらせていただいていたことから、医療者である前に一人の人間としての感情が溢れてきてしまいます。
「医療者なんだから感情移入しすぎちゃだめ」という考えの方もいますが、私達はそうは思いません。
人間らしい関わりから得られる「人の温かさ」には、沢山のパワーがあると実感しているからです。
S様にもこの気持ち、伝わってくださっていたら嬉しいですね。
ケアマネさん:最初お引き受けした時は、奥様に無責任なこと言ってしまいました。安心させようと思って「いつでもどこでも遊びに行けますよ!」と言ってしまったんです。でも使用したい制度が上手く使えない問題などもあり、奥様のご要望を叶えて差し上げることができず・・・もっと最初から適切な情報をお伝えしていきたかったなと反省しました。
サービス提供者が「こうしたい」と思ってもなかなか上手く事が進まないことの多くに、「法律や制度の縛りがある」ことがあげられます。
一方で、これら法律や制度によって守られていることや助けられていることも沢山あります。
いかに現状のサービスを上手く組み合わせながら今ある資源による最善のサービスを提供していけるかは、ケアマネさんだけではなく往診・訪問看護・ヘルパーなどの社会的資源全体が協力して情報共有し、地域全体で支えていくことで実現されるのだと思います。
このような家族会などの機会を通して、これからもぜひ多職種間での連携を大切にし続けていきたいですね。
「お墓もあるんですけど、まだうちにいます。毎日、ごめんねもう少し家にいてねって。」


PT・田中:コミュニケーションは難しかったが、ご本人は嫌なものは嫌という思いはありました。ご飯も食べれてスティックパン1本だけ。それを見て奥様が、何か食べさせようと思って声をかけてくださっていたが、なかなか食べてくれなかったことを思い出します。グリーフケアに行った時に、奥様が全然介護も大変じゃなかったよとおっしゃっていて、本当にすごいなと思いました。
田中にも、思わず涙があふれてきます。利用者様に真剣に向き合ってきたことで、上手くいかなかったことも全部含めて、様々な思いがよぎってきますよね。
最期の様子について、奥様がお話してくださいました。
奥様:4月に車椅子乗ってお花見に少し行って、ワンカップのお酒を飲んで帰ってきたんです。外に出るのは病院と床屋さんだけ。亡くなった時は、私がガタガタやっている時に気付いた時には白くなっていて逝ってしまいました。でも、それが私の運命かなと。その時は涙ひとつもでなかったので、薄情だなと思っちゃいましたね。皆さんによくしてくださったのが、良かったなと思います。
奥様はこのように話していますが、お話されている目には光るものがありました。「薄情だなと思った」とおっしゃっていますが、本当にH様のことを愛されており、大切に思われていたのだと、改めて感じました。とても素敵なご夫婦です。
奥様:後悔といえば、ただ本当に息を引き取る時に全然気が付けなかったことです。それでも、うちにいたというだけでよかったのかなと思っています。お墓もあるんですけど、まだうちにいます。毎日、ごめんねもう少し家にいてねって言ってます。お酒だけは置いておいてあげるね、って。私はやるだけのことはやったから後悔はないけど、主人の方はどう思っているかわからないですけどね。皆さんによくしてもらったこと、本当に私は幸せでした。
今はまだ多くの方が病院や施設でお亡くなりになっています。ご本人の希望であれば、どの場所でも近くに誰かしらの目がありますので安心できるかと思います。
しかし、それでも在宅で最期の時間を希望される方は沢山いらっしゃいます。
よく、お亡くなりになられた方のご家族が「最期に何もしてあげれなかった」と後悔されている姿を目にします。
ですがH様の奥様もおっしゃっていたように「うちにいたというだけ=自宅で最期を迎えられた」で十分なんじゃないかと思っています。
最期の瞬間には立ち会えなかったとしても、大切なご家族と同じ空間で同じ時間を過ごすことほど幸せなことはありません。
もしも自分が最期を迎える立場になったとしても、必ず大切な家族と同じ場所で過ごしたいと思うはずです。
家族は医療従事者ではありませんので、多くは望みません。ただ一緒にいてくれればいい、そう思うと思います。
H様にとっても、奥様と過ごされた最期の時間が幸せで有意義な時間であっただろうと想像し、そうであってほしいと願います。
これからも私達訪問看護が、そんな希望を持ったご本人とご家族の支えになれるといいですね。
「本人自身が自分の人生を諦めてしまっている事例で、どうするとよいのかとても悩んだ事例でした」


PT・高橋:ご本人の標として歩きたいという願望があって、プログラムを考えました。しかし、その度に様々な疾患的な障壁が出現し、なかなかスムーズにいかなかったんです。食事もとてもジャンクフードが好きだったんですが、透析をされている方でしたので医療者としてはいけないこととわかっていても、人として「だめですよ」ということはできませんでした。病気を期に離婚し歩けなくなる現状の気持ちについて「僕の気持ち、あなたにわかる?」と言われたこともありました。お母様が癌になってしまった時、どうしたらいいの?と相談も受けていたのですが、その後スケジュールの都合で僕が訪問に入る機会がなくなってしまい、それ以降予定が合わないまま最終的な気持ちを聞くことができませんでした。今でもそれが後悔で、なんとしてでもスケジュールの調整をして訪問に行った方がよかったのかなと思っています。
実はK様については、前回ユニケア内でのデスカンファレンスでも事例として挙げさせていただいた方でした。
K様と関わらせていただく中でのスタッフの葛藤や思いについてはぜひこちらの記事もご覧ください。
今回の家族会を通して、スタッフや関係職者の中でも様々な葛藤や後悔の声が聞かれました。そんな中で、ご参加いただいたS様のケアマネさんからは「私たちの仕事には正解はないんですよね。関わらせていただいてる間に出来ることをするだけ。その場その場を頑張るしかない、それが伝わると御家族の方に感謝していただけるんだなと実感し、とてもいい会に参加させていただきました。」というお言葉をいただきました。
最後は、ユニケア看護師の青木からの言葉で会が締められました。
看護師・青木:心からありがとうと言っていただけると頑張って良かったと思えます。自分も父が亡くなってから心が安定するまで10年近くかかり、今でも当時のことをフラッシュバックするんです。それでもこういう機会で、泣いたり笑ったりして話していく中で新たな視点が出来るため、今日は皆さんと共有できたのでとてもいい時間でした。皆様ありがとうございました。
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